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『ひかりごけ』 武田泰淳

この本、友人から借りてもう1ヶ月以上経ってますが、やっと読み終わりました!

短編集でそんなにボリュームもないのに、一編一編の内容の濃さのせいかなかなか読み進まない

どの作品も、読んでると自然とその光景が浮かび上がってしまうような視覚的な文章。

話の表現の中に、不意にギョッとさせられるものが混ざっていることがあって、話が進むにつれてだんだんと彼独特の暗雲垂れ込める異様な世界に引き込まれてしまいました。

表題作の「ひかりごけ」は、実際に起きた事件を元にして(読んでいる時なんとなくそんな気がしたんだよね)書かれたそうで・・・。

実際にあったなんて・・・真相の程はわかりませんが、実際にこの小説に書かれたようなものなのだとしたら、なんとも恐ろしい事件です。

<ストーリー>
船が難破して船長だけが無事発見されたのだけど、後に彼が他の船員の肉を食べて生き長らえた事が発覚。しかも、船員の骨がリンゴ箱に入って隠されているのが発見される。船長は船員を殺害したのではないか?それを隠すために骨を隠したのではないのか?と疑いがかかる。船長は裁判にかけれ、食人行為は認めたものの、殺人は否定。その裁判の記録は消失。第2回公判での、こじ付けにしか思えない不条理な判決。

この小説の中では、船長はとても周到に船員を食べて生き延びる計画を立てている。

そして船員たちはそんな船長の姿に恐れおののき、「どうか食わないでくれ」と言いながら死んでいく。

もしこんな極限的な状況に自分が置かれたとしたら、どうするだろう?

倫理がどうだとか、そんな事言ってる場合じゃあなくなるのは確かだと思う。

そうそう。つい最近、酒の飲みすぎで具合が胃腸の調子が悪かったからちょっとプチ断食してみたのだけど、とても恐ろしいことに気づきました。

たった1日の断食。それなのに、ちょっと精神的に自分はダメなんじゃないかと

断食中なのにやたらと動き回ってたのが良くなかったのだと思うけど、もう、死にそうにお腹が空いて、本当に食べ物のことしか考えられなくなったあの瞬間。

アレを思い出すと、もし自分が遭難でもして食べ物がないとなった時にどうするか?殺して食べるかどうかはわからないけれど、きっと死んだ人の肉なら食べてしまうんじゃないだろうか?

という、大変に恐ろしいことに気づいてしまいました。

飢えっていうのは、やっぱり経験してみないとわからない凄まじさだと思います。(たった1日でこんなこと思う私は軟弱すぎるのでしょう)

「経験した者にしかわからない」

それをこの小説の船長は主張するわけです。

「経験していない者になど、裁かれる筋合いはない」

そう船長は反論するのです。

これは明らかに、作者は裁判制度を批判していると見ました。

「私は私が食べた船員たちに裁かれたい」

その人と同じような経験をしなければ、その人の痛みは理解できない。その人を理解することもできない。

表向きに理解したフリをしたやつらに、何がわかるものか。

そういう事なのだと思います。

私も船長と同意見です。

主観的に相手の立場に成り代わってみてはじめて、客観的に全体を見渡すことができるんじゃないか?

そういう異端者への共感があってこそ、本当に正しい判決が下せるのじゃあないか?

そして私は、この武田泰淳という作家さんはもしかして、この異端者をテーマとして作品を書いているんじゃないか?と直感しました。

表題作の次に忘れられない短編「海肌の匂い」の主人公の市子さんは、部落の猟師のもとへ嫁いできた、いわゆるよそものです。

そして彼女は最後まで、部落という1個の生き物から外れたよそものという単体であるが故に、その異質な集団の中に仄見える暗い影の存在を敏感に感じとります。そして最後まで、特殊な”部落”という生き物の周辺で、その中に取り込まれまいと拒否し続けるのです。

作者の武田さんは、どこまでも集団の中に入れない異端者としての自分を感じていた人なのではないかという気がします。

彼の作品の中で感じる、集団から外れて孤立してしまった人間の
言い知れぬ虚無感。

なんだかとても馴染み深いこの喪失感に、ひどく共感を覚えました。

(それが、気づいたらこんなに長々と書いてしまった理由ですf^^;)

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THEME:ブックレビュー | GENRE:小説・文学

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